私的宝盤15 B'z / DINOSAUR(2017)

 泥臭いって言葉が好きです。この言葉には、ブレない確かさがある気がするから。泥臭く突き詰めた作品、或いは人そのものは、信頼できる。

 

DINOSAUR

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1. Dinosaur 
2. CHAMP 
3. Still Alive 
4. ハルカ
5. それでもやっぱり
6. 声明
7. Queen Of The Night
8. SKYROCKET
9. ルーフトップ
10. 弱い男
11. 愛しき幽霊
12. King Of The Street
13. Purple Pink Orange

 

 

 B'zのアルバムタイトルは大抵一語か二語の英語で表される。そしてそこにアルバムのテーマがギュッと閉じ込められている。僕はDINERSAURってタイトルを聴いた時、B'zのことだと思った。巨大で歴史があり、どこか得体の知れない未知のもの…。でもアルバムを通して聴いたり、彼らのインタビュー記事を読んだりする中で、このDINERSAURって言葉には、こんな自虐的な意味もあるってことを初めて知った。

 

 

 

『時代遅れ』

 

 

 

 つまり言ってしまえば、B'zは巨大で時代遅れってこと。もはや手遅れなんだと。それならば、時代の流れに沿うのではなく、本当に自分たちのやりたいスタイルで、真っ向勝負する。

 しかし楽曲を聴いていくと、ハードロック一辺倒ではなく、バラエティ豊かだ。B'zは決して純粋なハードロックバンドじゃない。色んな音楽をやってきている。J-POPはもちろんのことブルースロックにジャズ、パンクなど…。一曲単位で言えば、レゲエやミクスチャーなど、もっと無数にある。自分たちのDINOSAURばりの長い歴史の中での広く深いアーカイブを受け入れ、そして見つめ直した上で、純粋にやりたいものをやってみる。B'zのスタイルの特徴は、この多様さにあると思う。

 

 

 タイトル通り、まるで恐竜の鳴き声のようなTakのギターで幕を開ける。タイトルトラックはどこまでもヘヴィで、そして軽やかさをまとい疾走していくナンバー。最高にB'zらしく、嬉しくて堪らない。

 CHAMPは、いくつかの異なる曲(メロディは5つある)が合わさってできたような集合体のような曲。初めて聴いたのはセブンのCMだったけれど、あれじゃあこの曲のよさは伝わらない。イントロから最後まで通して聴くと、めちゃくちゃかっこいい。この歌詞じゃないけれど、圧倒的にかっこいい。ぶっちぎっています。歌詞についてはセブンイレブンをテーマにしていて、稲葉さん自身は「B'zのことじゃない」って言ってるけれど、僕はB'zのことを言っているようにしか思えない。稲葉さんが言う通り、B'zのことじゃないかも知れないけれど、セブンをB'zに重ね合わせたからこそできた曲だと思う。

 3曲目は、さらに圧巻。CHAMPという素晴らしい曲の後に聴いてもさらに気持ちが昂るのは、このStill Aliveという曲のもつパワーの凄まじさありき。こういうラブソングって、B'zしか作れんと思う。

 1、2、3曲目が直球ならば、4曲目のハルカは変化球。しかもダルビッシュばりに、イントロのリフからキレッキレ。ジャズとハードロックが非常に高いレベルで噛み合っている。アウトロのセッションが痺れる。手が届きそうでなかなか届かない理想や目標を「ハルカ」に例えていることに、最近になって気付いてきた。

 次曲はピアノのイントロで始まるバラード。メロディはどこか切なげで、でも切なくなり過ぎず、どこか温かい。歌詞は正直、よく分かんない。「それでもやっぱり」ってフレーズが思い浮かんで、それを軸に歌詞を書いたような感じ。でも何か好きだな、こういうの。この位置にあるのがまたいい。

 そして、ドラムの連打で始まる声明。個人的に、今作で最もDINOSAURを感じる楽曲。一瞬日本であることや平成の終わり(リリース当時)を忘れてしまう程、音作りはアメリカン&1970年代的。ただ、ところどころ効いたフックやタイトな演奏など、古き良きハードロックを限りなく現代的にアップデートしている。こういう音作りができるのがやっぱり、B'zの真骨頂だと思う。

 Queen Of The Nightは、恐らくキムタクのことを歌っている。リリース当初からファンの間で話題になっていて、そういう先入観も少なからずあるのだけれど、聴けば聴く程、SMAPの解散報道の渦中にある友人を歌っているとしか思えない。まあ、そういうのは抜きにして、この曲、痺れるほどかっこいい。畳み掛けるような曲の構成と、B'zの2人とサポメン3人のグルーヴ感が最高。

 8曲目のSKYROCKET。本人達曰くフロウ的な感覚で作ったらしい。1曲目にも言えるけれど、イントロのリフ一発でこれだけSKYROCKET(打ち上げ花火感)を出せるのもすごい。コーラスがさらにハッピーな感じを演出している。

 続いてはCHAMPに並ぶ今作のハイライト、ルーフトップ。こういうずしりとした感じ、リフを基調としたシンプルな作り、とても好きです。ARIGATOに似てる。

 そして10曲目。弱さについてあけすけに、ファンキーに歌う。曲調自体に悲壮感はなく、「弱くて何が悪い?」と開き直っているよう。人は絶対に誰しも弱さを秘めている。だからこそ、弱さを受け入れられないこと自体が弱さである。逆に自分が弱いと知っている人は強い。強いというより、しなやかでたくましいと言うべきか。稲葉さんの歌詞はこういうテーマがベースになっているけれど、ここまで直接的に「弱い」って言っているのは珍しい。そして、気持ちいい。

 愛しき幽霊は、稲葉さんの亡くなった父のことを歌っているのだろうか。「消えてしまいたくましくなるようなもはや虚しさはない」と歌っているように、悲壮感はないけれど、どこかにあなたを探してしまう。「もっとすればよかった」という後悔と、「どこかで見ていて欲しい」「見守ってくれている」といった願望や期待、不確かな安心感…。様々な心情が見え隠れする。けれど湧き上がる全てを見つめ、前を向いていることが伝わってくる。大切な人が死ぬって、ここ最近経験していない。いくらやるべきことをやっても感情を先取りすることはできなくて、結局その時にならないと自分がどう感じるかは分からない。果たして自分はその時、前を向けるだろうか。

 

 終盤にKing Of The Streetをもってくるあたりが流石。しかし声明にしても、このアルバムはドラムがよく炸裂している。シェーンのドラム、僕はすごい好きだったなあ。

 ラストは壮大なバラードで締め。聴いている内に紫、ピンク、黄色の夕陽が脳裏に広がる。唐突に終わるアウトロは、苦悩を断ち切る覚悟のようにも感じられる。

 

 

 どの時代にも旬なアーティストは山ほどいる。そして消えていったアーティストもまた、数え切れないほどいる。そんな中で、B'zはどんな時代も第一線に立ち、多くの人々に支持されてきた。そんな確かな実績と揺るぎないスタイルを作ってきたのは、言うまでもなく、2人の泥臭さだと思う。稲葉さんもTakも、決して天才じゃない。才能がありながらも、その才を叩き上げてきたからこそ、今のB'zがある。

 だから僕は「次のアルバムも絶対に最高だろう」って100%信頼しているし、B'zのことが大好きです。